初期治療で放射線治療とテモダールと併用する時(放射線 6週間)
1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
放射線治療後にでテモダールと併用する時(テモダール 6コース)
1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
その後の維持療法でアバスチン単独で使う時
1回15mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静脈内注射
☆ 再発時
再発時にアバスチン単独で使う時
1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
再発時にテモダールと併用する時
1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内注射
副作用(有害事象)
- 頻度は低いながらも,生じると重い副作用があります。
- 肺出血(喀血),血栓塞栓症(静脈血栓),消化管出血(穿孔),創傷治療の遅延,血圧上昇(高血圧性脳症,高血圧性クリーゼ),可逆性後白質脳症症候群,蛋白尿などがあげられます。
- 長期投与では高血圧と蛋白尿の頻度がかなり高くなります。
- 脳腫瘍特有のものとしては,dehiscenceといわれる開頭部位での創傷治癒遅延,脳腫瘍内出血(脳出血)などが最も注意するべき副作用です。
- 開頭手術から日が浅く,傷が十分治っていない時期(4週間以内までくらい)にアバスチンを使用すると傷が開いてしまうことがあります。
- テモダールとは異なり,副作用としての骨髄抑制が軽いので,テモダールとの併用が可能です。でも白血球数には要注意です。
2014年に発表された以下の2つの大きな臨床研究で,もっとも注目された膠芽腫への効果が否定されてしまいました
びまん性星細胞腫と退形成性星細胞腫の再発にはアバスチンは無効
van den Bent MJ: Bevacizumab and temozolomide in patients with first recurrence of WHO grade II and III glioma, without 1p/19q co-deletion (TAVAREC): a randomised controlled phase 2 EORTC trial. Lancet Oncol. 2018
ガドリニウム造影される再発星細胞系腫瘍に対して,テモゾロマイド単独あるいはアバスチン併用の試験がなされました。115例の無作為試験です。PFS,OS,,QOL,画像上の効果で,全てが陰性の結果です。副作用はアバスチンを使用したほうが多かったとあります。IDHの変異の有無にも関係がありませんでした。
アバスチンは膠芽腫の生存期間を延長しない(臨床第3相試験)
Gilbert MR, et al.: A randomized trial of bevacizmab for newly diagnosed glioblastoma. N Engl J Med 370: 699-708, 2014
AVAglio アバグリオ という国際共同研究です。Stuppレジメンにアバスチン(ベバシズマブ)を上乗せする併用治療です。60グレイ(1日あたり2Gy照射を6週間)の放射線治療中に、テモダール(1日あたり75mg/m2)連日投与、アバスチンを2週間間隔で10 mg/kg投与しました。その後は,3週間隔でアバスチンの投与を12サイクル継続しました。637人の患者さんが治療され,アバスチン使用群の無増悪生存期間 PFSは10.7ヶ月,使用しない場合は7.3ヶ月で有意差がありました。全生存期間中央値 OSは,アバスチン使用群で15.7ヶ月,使用しない場合は16.1ヶ月であり,これには有意な差はありませんでした。ここでも病勢の進行はある程度抑えられるけれども,生存期間の延長は得られないという最終成績です。さらにアバスチンを使用した群で,計画時に期待した効果は得られなかった,観察期間の延長とともに症状の悪化・生存の質 QOL の悪化・認知機能の悪化があったとの追記がありました。使用することによって,早期の認知機能悪化を招く可能性が強く示唆されています。無増悪生存期間の延長は,アバスチンにスードプログレッションを抑制する見かけの効果があるためであって,真の抗腫瘍効果 true effect ではないという論評もあります。
アバスチンは膠芽腫の生存期間を延長しない(臨床第3相試験)
Chinot OL, et al.: Bebacizmab plus radiotherapy-temozolomide for newly diagnosed gliomblastoma. N Engl J Med 370: 709-722, 2014
ヨーロッパからのもの(RTOG 0825)で,921人の膠芽腫の患者さんを対象としてアバグリオと同様の試験がされました。アバスチン使用群の無増悪生存期間 PFSは10.6ヶ月,使用しない場合は6.2ヶ月で有意差がありました。2年生存割合 2-year OSは,アバスチン使用群で33.9%,使用しない場合は30.1%であり,これには有意な差はありませんでした。アバスチンを使用したほうがQOLとPSの維持ができたけれども,副作用(有害事象)も多かったという結果です。アバスチンを使用しても生存期間の延長がないという結論でした。
アバスチン特有の画像所見の変化
- グレード3やグレード4の悪性神経膠腫は,ガドリニウム増強病変で腫瘍の大きさを評価することが多いです(Macdonald Criteria)
- アバスチンなどのantiangiogenatic agent (血管新生を阻害する薬)を使用すると,投与数日以内にガドリニウム増強病変が縮小して,一見治療がとても有効なようにみえることが多いです
- これはT1強調ガドリニウム増強像で評価すれば,アバスチンの効果があるということになります,もちろん悪い現象ではありません
- これは血液脳関門の透過性が下がってガドリニウムが腫瘍組織内に漏出できなくなるという見せかけの効果をみているだけなのです
- 注意しなければならないのは,患者さんによっては,同時にFLAIR フレア画像での,高信号病変(白くにじむ領域)がその周囲に拡大してくることです
- グリオマトーシス 神経膠腫症のような画像へ変化してくることがあります
- これは星細胞系腫瘍と乏突起膠細胞系腫瘍にみられる現象ですが,腫瘍の浸潤範囲が広がっていることを示します。
- これは単に腫瘍が進行病変となっているからですし,アバスチンの投与のために悪化しているのではありません
放射線壊死の治療に使えます(重要)
Gonzalez J, et al.: Effect of bevacizumab on radiation necrosis of the brain. Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys 67: 323–326, 2007
2007年の画期的な報告でした,放射線壊死の組織内でVEGFが産生されるために,細血管からの血液漿液性分が漏出するということに着目して,VEGFの働きを抑えるアバスチンを投与しました。放射線壊死がある8人の患者さんに投与が行なわれ全員に有効性が認められました。アバスチン投与後およそ8週間で,FLAIR画像での血管原性脳浮腫の縮小,ガドリニウム増強画像での造影剤漏出部分の縮小が認められました。しかし,深部静脈血栓症,肺塞栓などの副作用や高額な医療費などの問題から,アバスチンの投与に慎重な報告も相次いでいます。
Levin VA, et al .: Randomized double-blind placebo-controlled trial of bevacizumab therapy for radiation necrosis of the central nervous system. Int J Radiat Oncol Biol Phys 79: 1487-1495, 2011
高悪性度グリオーマではない放射線壊死の患者さん14名に無作為試験が行われました。2010年のDr. この報告では,bevacizumab at a dose of 7.5 mg/kg at 3-week intervals for two to four treatmentsと記載されています。7人のプラセボ(偽薬)投与をされた患者さんでは全く改善がありませんでしたが,アバスチンを投与された患者さん全員でMRIでの改善所見があり臨床症状も改善しました。中央値で10ヶ月間の投与がなされました。放射線壊死の再燃は2人の患者さんに生じて,2人ともまたアバスチンの投与がなされました。この結果はClass I evidenceであると結論されています。どの程度の薬剤量をどの程度の期間にわたって投与するべきかははっきりしていません。でも放射線壊死の期間は長いので1年くらいの投与をしなければならないのかもしれません。
アバスチンの保険診療は2013年6月に承認されました
澤村も日本で最初の治験に参加しました。
初発でも再発でも悪性神経膠腫であれば保険診療で使用ができます。医師や看護師などがこの薬剤の使用に関して十分な知識を有することも条件となります。保険診療が認められても薬剤費だけで月に数十万円ですから,高額医療費の対象となります。自己負担額は患者さんの年収によって違いますが,通常の収入がある一般的な3割負担の患者さんで,外来では毎月8万から10万円弱近い負担となると考えてください。
主な報告
再発膠芽腫でもアバスチン有効例はある
Morisse MC: Long-term survival in patients with recurrent glioblastoma treated with bevacizumab: a multicentric retrospective study. J Neurooncol. 2019
814例の再発膠芽腫の解析です。secondary GBMとアバスチン投与既往例は除外されました。アバスチン投与開始から12ヶ月後まで,RANO criteriaで進行がなかったのは64例 (LR long responder)でした。無増悪生存期間中央値は21ヶ月,全生存期間31ヶ月です。およそ8%でアバスチンが有効であったという推定値がでます。著者は12人に一人くらいの有効例があると言っています。
「解説」日本では膠芽腫の再発にアバスチン投与が保険診療で認められているので,この治療は行われているでしょう。LR 12ヶ月として有効なのは8%ですが,高額な医療費がそれにみあうかどうかの費用対効果の分析はありません。
高齢者の短期間放射線治療と併用しても効果はない
Wirsching HG. Bevacizumab plus hypofractionated radiotherapy versus radiotherapy alone in elderly patients with glioblastoma: the randomized, open-label, phase II ARTE trial. Ann Oncol. 2018
高齢者の膠芽腫に45グレイ15分割の放射線治療とアバスチンを組み合わせた治療です。やはりというか,全生存期間は12ヶ月ほどと短く,延長効果はありませんでした。
小児の高悪性度グリオーマの無増悪生存期間は延長されない
Grill J, et al.: Phase II, Open-Label, Randomized, Multicenter Trial (HERBY) of Bevacizumab in PediatricPatients With Newly Diagnosed High-Grade Glioma. J Clin Oncol. 2018
3歳から18歳の小児121人で,放射線治療とテモゾロマイドの治療にアバスチンを加える効果が試されました。放射線とテモゾロマイドでのEFS(無増悪,無イベント生存期間)は11.8ヶ月,アバスチンを上乗せすると8.2ヶ月でした。アバスチンを加えた方が悪くなるような結果でした。アバスチンを加えてた方が有害事象(副作用)の率が高いとのことです。
再発種膠芽腫にロムスチンと併用するとわずかながらPFSの延長がある
Wick W, et al.: Lomustine and Bevacizumab in Progressive Glioblastoma. N Engl J Med. 2017
Phase III EORTC 26101の結果報告です。膠芽腫の再発にロムスチン CCNU単独とアバスチンの併用が試験されました。ロムスチン単独のPFSは1.5ヶ月,ロムスチンとアバスチンを使用すると4.2ヶ月という結果です。
わずかな無増悪生存期間の延長があります。これはCCNUとの併用の試験なので,日本ではできない治療です。
IDH-1の変異のない膠芽腫にはアバスチンの有効性がある
Sandmann, T, et al. Patients with proneural glioblastoma may derive overall survival benefit from the addition of bevacizumab to first-line radiotherapy and temozolomide: retrospective analysis of the AVAglio trial. J Clin Oncol. 2015
膠芽腫を間葉系 (mesenchymal type)と前神経 (proneural type)に分けた場合,proneural IDH1 wild-typeの初期治療ではアバスチンを使用すると全生存期間 OS が延長する (17.1ヶ月 vs プラセボ 12.8ヶ月) という結果です。僅かな差なのかもしれませんが。
テモゾロマイドが効かない膠芽腫にアバスチンとイリノテカン?
Herrlinger U, et al.: Bevacizumab Plus Irinotecan Versus Temozolomide in Newly Diagnosed O6-Methylguanine-DNA Methyltransferase Nonmethylated Glioblastoma: The Randomized GLARIUS Trial. J Clin Oncol 2016
ヨーロッパからの報告です。MGMT非メチル化の膠芽腫はテモゾロマイドに抵抗性である事が知られています。そのような患者さん182人で,アバスチン (10 mg/kg every 2 weeks)とイリノテカン併用 (維持療法 125 mg/m2 every 2 weeks) と放射線治療,あるいはテモゾロマイドと放射線治療の治療成績が比較されました。6ヶ月無増悪生存割合PFSはそれぞれ79%と43%でした。PFS中央値は,9.7ヶ月と6.0ヶ月です。MGMTのメチル化がないテモゾロマイド抵抗性の膠芽腫には,アバスチンとイリノテカンの組み合わせの方が腫瘍進行を抑制する力が強いという報告です。しかしやはり,全生存割合は16.6ヶ月と17.5ヶ月であり有意差がありませんでした。またQOLを変えることもできませんでした。MGMT非メチル化を証明してイリノテカンを使用しても延命はできないし生存の質も改善しないということです。
再発膠芽腫への効果
Friedman HS, et al. Bevacizumab alone and in combination with irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol 27:4733–4740, 2009
2009年Friedmanらによって,再発の膠芽腫にアバスチンを単独で使用した場合に,6ヶ月無増悪生存割合が42.6%であると報告されました。これは,直接的な腫瘍増殖抑制のみならず,放射線治療後のpseudoprogressionの改善という画像所見を含んだ評価 (pseudoresponse) でしょうし,良すぎる成績です。しかし,再発した膠芽腫の臨床的増悪をアバスチンが一定期間抑えるというのは明らかな事実となりました。
その後の報告を鑑みて,患者さん側からは再発の膠芽腫にアバスチンを単独で使用した場合には,4割くらいの確率(4/10くらいの患者さん)で数ヶ月間は進行を抑制できるかもしれないと考えてください。
再発悪性神経膠腫へのアバスチンの効果
Nghlemphu PL, et al.: Bebacizumab and chemotherapy for recurrent glioblastoma: a single-institution experience. Neurology 72: 1217-1222, 2009
Norden AD, et al. Bevacizumab for recurrent malignant glioma: efficacy, toxicity and patterns of recurrence. Neurology 70: 779–787, 2008
両者ともあまり重要な論文ではありませんが,有害事象が少ないことと高齢者でのVEGFの発現が高いことから,高齢者に有用性があると書かれています。再発グレード3を含めれば7割くらいの患者さんに縮小効果(ガドリニウム増強部分)があったとされ,再発膠芽腫での6ヶ月無増悪生存割合は42%という高い数字が報告されました。アバスチンが血管新生を抑制するので,腫瘍は血管が豊かな塊として育ちませんから,ガドリニウムで増強される腫瘍は小さくなります。そのかわり一方で,FLAIR画像でわかるように,周囲にしみ込むように浸潤して広がっていきます (infiltrative tumor growth) 。ガドリニウム増強される部分が多い悪性神経膠腫に有効なのでしょう。 ですから,この治療では1990年から汎用されているMacdonald criteriaが使用できません。
Dr. Chamberlainがまた論評しています。分子標的治療は,薬価が高額であり,副作用もあるし,限られたタイプにしか効かないことは明らかなので,predictive marker(有効性の確認できる因子)を調べてから使用するべきであると強調しています。増強されない浸潤性の部分の腫瘍の伸展を促すのではないかとの警告も発しています。いわゆるグリオマトーシスのような腫瘍増大を誘発するというのです。またアバスチンを中止するとリバウンド(急速な再増大)があるので長期間投与が必要であることも指摘されています。
アバスチンではグリオーマを治せない? あるいは逆効果で広がってしまう?
Thompson EM, et al.: The paradoxical effect of bevacizumab in the therapy of malignant gliomas. Neurology 76: 87–93, 2011
アバスチンの効果を過大評価しないようにとの警告です。
アバスチンは放射線化学療法の効果を減じる可能性があるということなどが書かれています。腫瘍血管を正常化することで抗がん剤の到達が悪くなって,腫瘍細胞を殺す力 cytocydal effect のある抗がん剤の腫瘍内への到達が低下するという理論です。また腫瘍細胞の性質 phenotype が変化して浸潤能が高まり,腫瘍が広範囲に広がる可能性もあるとのことです。
ある動物実験では,アバスチンの主な効果は腫瘍による組織浮腫を減らすことであって,それによって実験動物は長生きするけれども,腫瘍体積自体は縮小せずに大きくなっているということも指摘しています (Jahnke K, Neuro-Oncol 2009)。
同様に最近の臨床研究でも無増悪生存期間は延長されるのですが,全生存期間は延びないことが指摘されています。もっと具体的には,ガドリニウム増強される部分の腫瘍はアバスチンの投与で縮小するのですが,FLAIR画像で描出される浸潤腫瘍の広がりはアバスチン投与で逆に増大してしまうかもしれないという指摘です。またガドリニウム増強病変の消長で効果を判定するMacdonald criteriaという方法で治療効果を判定してはいけないと強調しています。